安全かつ快適な視環境を保つため、人が集まる場所にはふさわしい明るさ(照度)があります。照明設備に求められる基準は、それぞれの空間やそこでの作業内容ごとに定められており、定期的な測定が必要とされています。さらに、省エネルギーに対する配慮も不可欠です。照度にはどんな基準があり、どのような方法で測定しなければならないのか。また、照明設備の省エネ対策はどうするのかなどについてご紹介します。建物を管理する責任者は、ポイントを把握しておきましょう。
照度測定の義務と照度の基準値
照度測定の義務
照度とは、光で照らされている面の明るさの度合いのことで、単位はルクスで表されます。オフィスや工場など人が作業をする場所の照明設備は、「労働安全衛生規則」および「事務所衛生基準規則」第二章:事務室の環境管理(第10条)で、「事業者は室(労働者を常時就業させる室)の作業面の照度を次の(下記)基準に適合させなければならない。また、定期的に照度を点検しなければならない」と定められています。
点検の頻度は6カ月に1回としています。
最低照度が定められている
同じく「労働安全衛生規則」および「事務所衛生基準規則」第二章:事務室の環境管理(第10条)では、作業内容で区分した照度の最低基準も示しています。基準を満たさない事業者は、罰則の対象となる可能性があります。
照度の最低値
- 精密な作業:300ルクス以上
- 普通の作業:150ルクス以上
- 粗な作業:70ルクス以上
照度の推奨値
日本工業規格(JIS)では、人々のさまざまな活動が安全・快適に行える視環境をつくるため、推奨する照度基準を「JIS照明基準」で定めています。
JISの基準では、作業内容や空間の用途に応じて、詳細に推奨照度を設定しています。ただしこの照明基準は、作業する場所についての推奨値のため、空間全体や平均で推奨照度を維持する必要はありません。例えば、デスクワークを行う机上で必要な照度が定められている場合、同じ室内でも床など事務作業を行わない場所ではその照度でなくてもかまいません。
最近はさまざまな世代の活躍推進で、高齢者が多数集う場所もあります。高齢者は加齢によって網膜に届く光量が減っていくため、より高い照度が必要とされます。高齢者が多い場所は、基準よりも高めの照度設定がよいでしょう。
照度の測定方法
空間の照度が基準を満たしているか確認するには、測定が必要です。照度の測定手順は、人工照明の照度を測定する一般的な方法としてJISが規定しています。項目ごとに、内容を確認してみましょう。
照度は照度計を用いて測定する
照度の測定は、照度計を用います。照度測定の重要度および照度値に応じて、必要とする精度を満たす性能がある照度計を選択します。現在はデジタル形式が一般的です。照度計には以下の2つの種類があります。
【照度計の種類と特長】
- 光電池式:電源がいらない
- 光電管式:低照度まで測定可能
測定位置
では、空間のどこを測定すればよいのでしょうか。測定に際しては、特に指定がない限りは水平面照度を測定します。測定する高さは室内なら作業対象面の上面、もしくは上面から5cm以内。指定がない場合は床上80±5cm、和室では畳上40±5cmとします。廊下や屋外は床面または地面上15cm以下の高さです。
測定点の位置は、指定がある場合はそれに準じます。指定がない場合は照明施設の使用目的によって測定領域を取り決め、定めた領域にくまなく測定点を配置。原則として測定領域を等しい大きさの面積に分割し、分割線交点に 1 点ずつ、全体で10~50 点になるようにします。
測定点の決め方

●平均照度を求める
空間全体の平均照度を測定する場合は、測定範囲を等間隔な縦横の分割線と境界線で分割された、単位区域ごとの平均照度から算出します。単位区域ごとの平均照度Eは、原則として4点法による隅の4点の照度を測定して算出します。
室内中央に照明器具が1つ設備されているような場合は、平均照度E算出には5点法を用います。
E:平均照度
Ei:隅の照度
Eg:重心の照度
Em:辺中心の照度
4点法による平均照度算出法
E=1/4ΣEi
=1/4(E1+E2+E3+E4)

5点法による平均照度算出法
(5点法a)
E=1/12(ΣEi+8Eg)
=1/12(E1+E2+E3+E4+8Eg)

(5点法b)
E=1/6(ΣEm+2Eg)
=1/6(E1+E2+E3+E4+2Eg)

測定結果が基準照度に適合していれば、問題はありません。結果を記録に残しておきます。
結果が基準に満たなかった場合は、照明器具の交換や増設など改善策を講じます。
照度測定時の注意点
照度を測定する際には、正確さを期するためJISの注意事項があります。事前に確認しましょう。
測定開始前
電球は測定の5分前、放電灯は30分前から点灯させておきます。また測定者は、明度の高い服は避けます。服や体が光を反射し、正確な照度が測れないためです。
測定時
電源電圧を測定する際は、照明器具にできるだけ近い位置で計測します。照度を測定する面に、照度計受光部の測定基準面をできるだけ一致させます。照度計は正面方向から入射する光だけでなく、斜め方向からの入射光も測定しています。測定者は自身からの反射光が影響したり、自身が壁となって遮ったりしないように注意が必要です。
また、測定対象以外の外光(昼光など)の影響は、できるだけ除外します。
照明設備等の省エネに関する義務
照明設備に求められる基準は、照度だけではありません。基準とされる照度を確保しつつ、省エネルギーについても配慮が必要です。
省エネに関する義務
建築物省エネ法は、東日本大震災を契機に省エネ対策の抜本強化を目指して、平成27年に公布されました。従来の「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」(従来の省エネ法)で措置されていた300m2以上の建築物の新築などの「省エネ措置の届出」や、住宅事業建築主が新築する、一戸建て住宅に対する「住宅トップランナー制度」などの措置が、建築物省エネ法に移行されました。加えて、建築物のエネルギー消費性能の向上を図るため、住宅以外の一定規模以上の建築物のエネルギー消費性能基準への適合義務を創設。また、エネルギー消費性能向上計画の認定制度の創設などの措置が講じられました。
対象となる住宅・建築物の建築主・所有者には、建築物省エネ法(正式名:建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律)に基づいて、省エネ基準に対する適合義務や届出義務、努力義務が課されています。
建築物省エネ法の対象となる建築物は、以下の条件となります。
建築物省エネ法の対象
規制措置の対象 | ||
非住宅 2000m2以上 | 新築・増改築 | 適合義務 【建築確認手続きに連動】 |
建築物 300m2以上 (非住宅・住宅) | 新築・増改築 | 届出義務 (基準に適合せず、必要と認める場合、指示・命令など) |
誘導措置の対象 | ||
すべての建築物 | 新築・増改築 修繕・空気調和設備等の改修 模様替え |
性能向上計画認定申請 |
既存 | 基準適合認定申請 |
出典:国土交通省「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)の概要(平成29年4月)」より作成
省エネ措置が基準に適合しない場合は、必要に応じて所管行政庁から指示・命令があります。
照明設備の省エネ方法
建物省エネ法では、建物に設置する暖冷房設備、換気設備、給湯設備および照明設備について、設備機器ごとに仕様基準で定める性能値以上の機器を用いることが求められます。
照明設備の省エネ対策としては、高効率照明(LED照明など)の採用や高効率反射板を設置するといった設備を交換・付加するもの。また、照明制御システムで調光範囲を限定する方法もあります。さらに「明るさセンサ」や「人感センサ」などセンサを設置し、むだな照明をカットする方法は、主に階段照明やトイレで採用されています。消費電力を10~30%抑えることも可能です。
こうした対策を組み合わせることで、照明を省エネ化。建物のエネルギー効率をアップさせます。
まとめ
照明設備は、使用時間とともに明るさなどが変化していくことから、安全で快適な視環境を確保していくには、定期的な照度点検が欠かせません。また、照明は長時間使用する設備でもあり、省エネの観点からも不断の見直しが必要です。
日本メックスは、建物環境に関するプロ集団です。照明設備の管理・点検・メンテナンスはもちろん、専門家たちによるアドバイスで省エネに関するプランもご提案。これまでに数多くの実績を積み重ねており、安心してお任せいただけます。
お困りごとがあれば、一度ぜひご相談ください。
(文:伊東慎一)