ビル管法とは?対象の特定建築物や水質検査の項目一覧

ビル経営、ビル管理業に関わる最も基本的な法律がビル管法(ビル管理法)です。今回は、ビル管法の対象となる特定建築物の定義や、所有者に求められる届け出や手続き、検査内容(水質検査、空気環境測定、清掃・衛生管理)についてまとめてみました。あわせてビル管法に基づいて施設を管理するビル管理技術者、基準を満たしていない場合の罰則などについても解説しています。ビル管法に則った施設運営で、「テナント企業の満足度をあげたい」という皆さまには、チェックいただきたい情報ばかりです。

ビル管理法(ビル衛生管理法)とは?

正式名称を「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」というビル衛生管理法は、略称で、「ビル管理法」と呼ばれる場合が一般的です。ビル管理法の目的は、ビルの衛生環境を向上させ、安全に管理すること。具体的には、不特定多数の人が利用するビルを清潔な状態で利用できるように、空気、水、衛生(清掃、害虫駆除など)についての管理項目を定めて、設備をきちんとメンテナンスし、正常な状態に維持するように求めています。

ビル管理法の対象は?

特定建築物とは

ビル管理法の対象となるのは、不特定多数の人が利用する「特定建築物」と呼ばれる建物です。ビル管理法では、施設の用途と規模により、特定建築物が定義されています。
用途としては、デパートなどの規模の大きな商業施設や、映画館、劇場といった娯楽施設、博物館・美術館、ホテルや学校、オフィスビル・事務所などが相当します。
規模としては、特定用途に使われる床面積が、商業施設の場合3,000平方メートル以上、学校の場合8,000平方メートル以上があてはまります。特定用途以外で使用される面積が全体の10%を超える建物は、ビル管理法は適用されません。その他にも、対象外となる建物の種類があります。マンションや病院、介護施設、工場などは、「特殊な環境であること」「一般とは異なる設備を持つ建物であること」などの理由から、ビル管理法の対象になっていません。

特定建築物の届け出

特定建築物にあてはまる建物の使用を開始したら、使用開始日から1ヶ月以内に、特定建築物の「所在場所」、「用途」、「延べ面積」を各都道府県知事(保健所)に届け出て登録しなくてはなりません。また、特定建築物の用途や届出事項に変更があった時、特定建築物が特定建築物に該当しない状況になった時にも、1か月以内に届け出が求められます。
その他、特定建築物に関連する届け出事項として、給水用防錆剤使用開始届・届出事項変更届があります。これは飲料水に防錆剤を使用しようとする場合に必要となるもので、防錆剤の種類、管理責任者などを届け出ることが義務付けられています。

ビル管理法で検査される項目

ビル管理法に基づいて特定建築物の所有者が実施しなくてはならない、空気、水、清掃・衛生管理の検査項目や対応内容を解説します。

空気環境の管理

空気環境測定は、空調設備や換気設備のチェックによって行われます。窓が多数あって容易に換気が行える建物と異なり、窓のない商業施設やオフィスビルは、一か所で換気や冷暖房を管理する中央換気方式をとっているため、建物の空気をきれいに保つには空気環境の定期的な測定が大切となります。空気環境測定の種類とそれぞれの詳細は次のようになります。

<定期測定>

測定項目 基準値 測定時期測定時期
浮遊粉じんの量 0.15mg/m3 2ヶ月以内
一酸化炭素 10ppm以下 2ヶ月以内
二酸化炭素 1,000ppm以下 2ヶ月以内
温度 17℃~28℃ 2ヶ月以内
相対湿度 40%~70%以下 2ヶ月以内
気流 0.5m/sec以下 2ヶ月以内

<ホルムアルデヒド測定>

基準値 測定時期 測定分析方法
0.08ppm 以下 新築、大規模修繕・模様替などの後、直近の6月1日~9月30日に1回 場所/各階の任意の居室
時間帯/通常の使用時間
位置/居室中央部の高さ床上0.75m~1.20m
時間/30分間
分析方法
3つから選択
①ジニトロフェニルヒドラジン捕集
②トリアゾール法(AHMT吸光光度法)
③厚生労働大臣が指定する測定器

また空気調和設備に関する衛生上必要な措置として、病原体によって居室の内部の空気が汚染されることを防止するため、ビルの空調用冷凍機に使われる冷却塔、加湿装置などへの措置が規定されています。
冷却塔については、供給する水が水道法の水質基準に適するように、冷却塔、冷却水の水管の汚れの清掃や換水を1ヶ月に1回、実施することが求められます。
加湿装置では、繁殖したカビによる感染症やレジオネラ属菌によるレジオネラ症などを予防するため、1ヶ月に1回、清掃の実施が求められています。また近年の法改正により、ドレンパン(エアコン内に組み込まれた冷却時に空気中から分離した水滴を受け止める皿のこと)の分解点検・清掃、スイッチ点検など、より細かな措置が義務付けられるようになっています。

水質検査・水槽

これまではビルで使われる水については、飲用目的の水にのみ、水道法の水質基準が適用されていましたが、生活用水(炊事用、浴用、手洗い用等)も飲用水の範疇に含め、基準が適用されるようになっています。
水道事業者の配水管から分岐して設けられた給水管やそれに直結する給水用具以外の給水に関する設備を設けて、飲用水、生活水を供給する場合は、水道法で定められた水質基準に適合する水を供給するよう、下記の表のような水質検査を行わなくてはなりません。

<水道又は専用水道から供給する水のみを水源として飲料水を供給する場合の定期検査>

検査回数 6ヶ月以内に1回 1年以内に1回 (6月1日~9月30日)
検査項目 一般細菌
大腸菌
鉛及びその化合物※
亜硝酸態窒素
硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素
亜鉛及びその化合物※
鉄及びその化合物※
銅及びその化合物※
塩化物イオン
蒸発残留物※
有機物(全有機炭素(TOC)の量)
pH値

臭気
色度
濁度
シアン化物イオン及び塩化シアン
塩素酸
クロロ酢酸
クロロホルム
ジクロロ酢酸
ジブロモクロロメタン
臭素酸
総トリハロメタン
トリクロロ酢酸
ブロモジクロロメタン
ブロモホルム
ホルムアルデヒド
備考 ● 給水栓における水の色、濁り、におい、味その他の状態より供給する水に以上を認めたとき→必要な項目について検査 ※の項目は、水質検査の結果、水質基準に適合していた場合は、その次の回の水質検査時に省略可能。

<地下水など水道や専用水道以外の水を水源の全部又は一部として飲料水を供給する場合の定期検査>

検査回数 6ヶ月以内ごとに1回 1年以内ごとに1回
(6月1日~9月30日)
3年以内ごとに1回
検査項目 一般細菌
大腸菌
鉛及びその化合物※
亜硝酸態窒素
硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素
亜鉛及びその化合物※
鉄及びその化合物※
銅及びその化合物※
塩化物イオン
蒸発残留物※
有機物(全有機炭素(TOC)の量)
pH値

臭気
色度
濁度
シアン化物イオン及び塩化シアン
塩素酸
クロロ酢酸
クロロホルム
ジクロロ酢酸
ジブロモクロロメタン
臭素酸
総トリハロメタン
トリクロロ酢酸
ブロモジクロロメタン
ブロモホルム
ホルムアルデヒド
四塩化炭素
シス-1,2-ジクロロエチレン及びトランス-1,2-ジクロロエチレン
ジクロロメタン
テトラクロロエチレン
トリクロロエチレン
ベンゼン、フェノール類
備考
  • 給水開始前→水道水質基準に関する省令の全項目(51項目)
  • 給水栓における水の色、濁り、におい、味その他の状態より供給する水に以上を認めたとき→必要な項目について検査
  • 周辺の井戸等における水質の変化その他の事情から判断して、水質基準に適合しないおそれがあるとき→必要な項目について検査
    ※の項目は、水質検査の結果、水質基準に適合していた場合は、その次の回の水質検査時に省略可能。

厚生労働省 建築物環境衛生管理基準についてより

また飲用水、生活用水以外の雑用水と呼ばれる水も、健康被害が生じないように衛生上の必要な措置が既定されています。 水洗トイレ用水、冷却・冷房用水、修景用水(周囲の景観を考慮してつくられた噴水、滝、水車など)といった用途に、水道水ではなく下水処理水、産業廃水等の再生水を使う場合が対象となります。

<雑用水の定期検査>

用途 項目 基準値 頻度
散水、修景、清掃用水
(し尿を含む水を原水として使用しない)
遊離残留塩素濃度 0.1ppm以上 7日以内に1回
pH 5.8~8.6
臭気 異常でないこと
外観 ほとんど無色透明
大腸菌 未検出 2ヶ月以内に1回
濁度 2度以下
水洗便所用水 遊離残留塩素濃度 0.1ppm以上 7日以内に1回
pH 5.8~8.6
臭気 異常でないこと
外観 ほとんど無色透明
大腸菌 未検出 2ヶ月以内に1回

その他、衛生を保たなくてはならないビルの水として、水道管を通って送られてきた水を一時的に貯めておく貯水槽(受水槽)の水があります。貯水槽は巨大な水槽ですから、管理を怠れば、すぐに水が汚染されてしまいますし、汚染された水を飲料用に使えば、感染症が発生する可能性もあるため、定期的な検査が求められています。
貯水槽の水質検査の内容としては、一般細菌、大腸菌、硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素、塩化物イオン、有機物、pH値、味、臭気、色度、濁度の10項目を定期的(1年以内に1回)にチェックします。あわせて、ポンプや周辺機器の点検も行います。
また排水槽の水も、ビルの所有者が管理しなくてはならない水です。排水槽とは、規模の大きなビルやマンションが自然流下では排除できない建物内・敷地内の排水を集め、ポンプなどによって排除するために設ける設備です。一年に2回(6カ月ごとに1回)の清掃が法律で義務付けられています。「残留物質の排除と消毒」「配水管をつまらせない役割を担う粗集器やその周辺機器の点検」「グリストラップ(水中の生ごみ・油脂などを直接下水道に流さないために一時的に貯める場所)の清掃」などを行い、排水管が正常に機能するようにメンテナンスします。

清掃・衛生管理

日常的な清掃は、テナントに入居している企業が自分で行ったり、清掃会社に依頼したり
することで対応できますが、ビル管理法で管理項目とされている害獣(ネズミなど)や害虫(ゴキブリなど)の駆除は専門業者に依頼しなくてはなりません。害獣・害虫の発生場所、生息場所や侵入経路、被害の状況についての調査を半年に1回実施することが求められています。

飲料水検査は平成26年4月より改正

数年前に、政府の食品安全委員会の審議で、亜硝酸性窒素と呼ばれる物質によって汚染された地下水や井戸水の飲用によるメトヘモグロビン血症の発症リスクが指摘されました。それを受けて、平成26年4月のビル管理法改正で水質検査項目に亜硝酸態窒素が追加されました。6カ月以内に一度の検査で、基準値10mg/L以下が設定されています。

ビル管理法で必要な資格

ビル管理技術者の役割とは

ビル管理技術者は、正式には「建築物環境衛生管理技術者」という国家資格です。
ビル管理技術者の仕事は、「維持管理業務の計画の立案・実施」「測定・検査の実施とその評価」「問題点の改善案の作成と意見の申請」です。各種定期点検を業者に依頼し、業者が行う検査や作業を監督し、結果をふまえて改善点があればビルのオーナーに提言します。建築の構造、設備、環境に関するプロの証ともいえるビル管理技術者ですが、求められるのは建物に関する知識だけではありません。テナントの要望や苦情に基づいて、作業に関する指示を出すなど、テナント入居者と清掃・駆除会社との仲介・橋渡しも行うため、コミュニケーションや折衝の能力も必須となります。特定建築物の所有者は、建築物の維持管理が環境衛生上適正に行われるように、ビル管理技術者を選任しなければなりません。(1人のビル管理技術者は原則として2つの特定建築物を兼務できないことも知っておいてください)

ビル管理技術者になるには

ビル管理技術者になるための第一条件として、「厚生労働省令で定められた建築物の用途部分(映画館、劇場、百貨店、遊技場、図書館、博物館、店舗、学校、ホテルなど)において、同省令の定める実務に2年以上従事した者であること」が求められます。この条件を満たした者が、①厚生労働大臣が行う国家試験をパスするか、②厚生労働大臣の登録を受けた者が行う講習会の課程を修了することで、ビル管理技術者になることができます。
国家試験は、例年10月上旬の日曜日に行われます。「建築物衛生行政概論」「建築物の環境衛生」「空気環境の調整」「建築物の構造概論」「給水及び排水の管理」「清掃」「ねずみ、昆虫等の防除」といった受験科目で、計180問で65%以上の正解が合格基準となります。講習会は、試験と同じ科目について計100時間以上の講習を受けることによって資格を得ることができます。講習会の受講資格は、実務経験、学歴、すでに保有する資格の内容によって定められています。詳細は、国家試験、講習会を運営する公益財団法人日本建築衛生管理教育センターのWebサイトで確認できます。

ビル管理法に則った検査・清掃を怠った場合は?

特定建築物を所有しているにもかかわらず、ビル管理法に則った検査・作業を怠った場合は、どうなるのでしょうか?「ビル管理法の基準に適合していない」という理由だけでは、直ちに行政措置や罰則の対象となることはありません。ただし、法律に違反していて、その建築物を利用する人の健康を損なうおそれがある場合は、都道府県知事や保健所長によって改善命令が出されます。さらに「緊急性を要する」と判断されたなら、設備の使用停止や使用制限が行われることもあります。仮にそうなると、テナントに大きな迷惑や損害を与えることになります。ビル管理法の基準をクリアする経営や管理に努めることは、ビルを所有する方の責務といえます。

まとめ

ビル管法を遵守して、設備の点検・清掃・検査を定期的に実施するには相応のコストがかかります。しかしそうした取組みには、「人体への悪影響を防ぐ」「行政措置などの命令を受ける事態を防ぐ」といったリスク対応以上の意義があるのではないでしょうか?水や空気がきれいで、清潔な建物であり続けることは、皆さまが所有する建物の価値が維持されることに他ならないのです。
日本メックスは、ビル管理技術者(建築物環境衛生管理技術者)をはじめ、ビルクリーニング技能士などの資格保有者によって、ビル管理法にもとづく検査や清掃をサポートしています。清掃員の適切な配置をはじめ、維持管理業務のすみずみに気を配りながら、お客様のビル経営、ビル管理のクオリティアップと効率化に努めています。

(文:伊東慎一)

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