建物のライフサイクルコスト削減へ!屋上・外壁改修の基礎知識

建物は竣工してから時間の経過とともに劣化が進行し、資産価値が減少していきます。残念ながら、どんな建物でも経年劣化は回避できません。しかし、慎重に計画を練り、改修といった維持保全を適切に実施すれば、建物のサスティナビリティ、いわゆる長寿命化を図ることができます。本記事では、劣化による影響の大きい「屋上」「外壁」を取り上げ、適切な改修について考えます。

的確な改修がライフサイクルコスト(LCC)の削減に貢献する

改修は、「ライフサイクルコスト(LCC)」を考える上で重要になります。LCCとは、建物の企画・設計から建設、運用、廃棄までの間に発生する総費用のことで、建設までに必要となるイニシャルコストと、運用開始後に生じるランニングコストからなります。長期的に建物を運用する場合、特にランニングコストの適正化が欠かせません。なぜなら、建物を60年運用する場合、ランニングコストは建設費の約4~5倍になるという試算もあるからです。

ライフサイクルコストの増大を避けるためには、劣化による損害を最小限に留める必要があります。そのためには、中長期的な視野で維持管理計画を策定。計画にもとづいて日常点検や定期点検を実施しながら異常の兆候を早期発見し、迅速に改修を実施しなければいけません。

維持管理計画を策定する際には、屋上や外壁、内装、各種設備などの経年劣化を時系列で想定します。特に、屋上や外壁は劣化をそのままにすると、改修費用が高額になるだけでなく、建物のテナントや居住者の安全を損なう危険もあるので注意が必要です。例えば、屋上の劣化が進むと躯体などに雨水が侵入し、建物全体の劣化を加速させます。また、外壁が落下することになれば、事故の原因にもなりかねません。こうした事態を避けるためには、繰り返しとなりますが適切な改修が必要なのです。

防水対策の種類によって異なる屋上の劣化と改修

適切な改修が行われずに屋上の劣化が進むと、建物の機能が著しく損なわれます。例えば防水材の経年劣化や損傷等により、漏水が生じる恐れがあり、防水工法の種類により劣化の速度が異なります。それぞれの防水工法の特徴等について、以下で解説します。

・アスファルト防水
 1960~80年代に竣工した建物の多くは、屋上にアスファルト防水が採用されています。これは熱で溶かした液状のアスファルトをひしゃくでまき、3、4層の防水層を形成する方法で、耐久性に優れています。防水層を保護するために、コンクリートや平板ブロックを敷設しますが、材質の劣化によって20~30年ほどで改修が必要になります。

・合成高分子系ルーフィングシート防水
 塩ビ樹脂や加硫ゴムを原材料としたルーフィングシートに接着剤を塗布し、これをローラーなどで圧をかけて張り付ける接着工法と、金具でシートを固定する機械式固定工法があります。いずれも15~20年で改修が必要になります。

・塗膜防水
 ウレタンゴムなどを原材料にした防水材を、ローラーで2、3回塗ることで防水層を構成します。通気緩衝シートをルーフ面の上に張り、防水層と屋上部分と密着させない絶縁工法と、スラブ面に直接塗り重ねる接着工法があります。他の防水工法と比べて安価に実施できる反面、耐用年数では短くなりますが、複雑な形状でも施工が可能です。

 定期点検や使用されている防水材の耐用年数等を考慮し、仕様に合った防水改修を実施することで、劣化の損害を最小限に留めることができます。

 現在、防水対策の中で利用率が高いのはアスファルト防水です。その代表的な改修手法としては、塗膜防水やシート防水が挙げられます。その1つであるオーバーレイ工法は、保護コンクリートや既存防水の上に新しく防水層を塗り重ねるというもの。利点として、工事中の漏水リスクを低減できる点と、塗膜防水やシート防水のように自重の軽い材料を使用することで過重負荷を低減できる点が挙げられます。

 環境負荷の軽減につながる防水改修もあります。例としては、既存の防水保護コンクリートや防水面の上に硬質ウレタンフォームなどの断熱材を敷き、その上に防水を施した後、防水材の表面に遮熱効果のある高反射塗料を塗布する工法があります。こうした工法を採用することで、日射による影響を抑えることで室温を均一に保ち、快適な室温環境を形成するとともに、空調機の負荷を軽減して二酸化炭素の排出量を削減するなど、低炭素社会の実現に貢献することも可能です。

仕上げ材ごとに考える外壁の劣化と改修

 外壁は、人の目に触れやすい部分であり、建物の美観を大きく左右します。また、外壁が劣化によって剥がれると、落下事故を引き起こす危険があります。

 建物がつくられた年代によって、外壁の仕上げの方法は異なります。1960~70年代につくられた建物は、躯体コンクリート面やモルタル面への塗装、および塗装吹付が外壁の仕上げとして多く採用されています。1980年代以降の建物は、塗装のほかにタイル張りや金属パネルなど、多種多様な仕上げ材が使われています。

 外壁は、躯体コンクリート、モルタル下地、塗装、タイルなどの仕上げ材ごとに経年劣化が生じるため、それぞれの劣化の度合いに応じた改修の選択が必要になります。

・躯体鉄筋コンクリート
 コンクリートは膨張・収縮や振動などにより、ひび割れや浮きが発生し、そうした劣化が進んだ部分から雨水が侵入すると、鉄筋などを腐食させます。また、鉄筋コンクリートは、コンクリートのアルカリ性質によって鉄筋の酸化腐食を防いでいますが、コンクリートの中性化が進むと防錆効果が失われてしまいます。さらに、腐食した金属が膨張するとコンクリートを押し出し、剥落を引き起こす危険もあります。

・外装塗装仕上げ
 塗装面は、風雨や紫外線などの影響によって劣化します。具体的には、塗膜性能が低下したり、塗料が粉状になるチョーキング現象、塗料の付着強度の減少、塗膜の膨れ・剥がれといった劣化現象が起きます。塗膜が剥がれると雨水が侵入し、躯体のひび割れなどから漏水の原因になる可能性があります。1960~80年代に建てられた建物の場合、外壁の仕上げ塗料や下地調整塗材にアスベストが含有されている可能性が高いため、工事前には調査を実施するなど注意が必要です。

・タイル仕上げ
 下地のモルタルや躯体コンクリートが経年劣化することにより、タイルの浮きやひび割れ、タイル陶片の欠け・剥がれが生じます。劣化箇所から裏面に雨水が侵入したり、振動などによってタイルが剥離し、落下する場合があります。また、下地や目地が二酸化炭素などに反応して白色の物質が付着するエフロレッセンスや、躯体内の鋼材の錆が流出し、汚れが、タイルの表面に付着して美観を損なうケースもあります。

 改修にあたっては、仕上げ材ごとに適切な方法を選択する必要があります。

 躯体鉄筋コンクリートは、ひび割れ・浮きを起こしている部分への樹脂注入、シール材の充填・塗布、欠損部分へのエポキシ樹脂などの充填といった改修方法があります。モルタル塗り替えで塗厚が25㎜以上になる場合は、浮きが生じた部分をアンカーピンの打ち込みやエポキシ樹脂の注入によって補強するピンニング工法や、劣化箇所をアンカーピンに加えてラス金網で覆うピンネット工法といった対策を講じます。
 外装塗装は、既存塗膜をサンダーや高圧水洗いなどによって取り除いた上で、新たに下地調整塗材を塗布し表面を平滑にした後、塗装を施します。
 タイル張りは大々的な張り替えのほかに、既存のタイル仕上げはそのままにして浮き部にエポキシ樹脂などを注入して部分的に改修する工法もあります。

 外壁も環境負荷の軽減につながる改修があります。例えば、外壁コンクリートの上に、断熱材のウレタンフォームを張り、新たに外装仕上材を施すことで、夏は涼しく、冬は暖かい快適な室内環境を形成することができます。また、結露を抑止することもできます。

 時間の経過とともに、屋上や外壁などは劣化していきます。しかし、計画的に予防的な改修を実施することで、劣化を最小限に留めるだけではなく機能強化を図り、建物の資産価値を向上させられます。それには、日々の点検で得られる膨大なデータにもとづいた維持管理計画の策定・調整とともに、専門家による定期的な調査や診断が欠かせません。

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