これまで建物の維持管理業務は、コスト面ばかりがクローズアップされがちでした。しかし、時代の変化とともに、建物の価値を向上する手段の1つとして注目されるようになっています。建物を長期間にわたって運用しようという気運が高まる中で、「資産価値を維持・向上するために、どう維持管理業務に取り組むか」が問われるようになっています。本記事では、近年の動向やパートナーの選び方など、建物の維持管理業務に取り組むヒントを紹介しています。
取り組まなければリスク、取り組めばチャンス
従来の日本では、建物の老朽化や機能的陳腐化が進むと取り壊し、次々と建て替えていく「スクラップ・アンド・ビルド」という考え方が一般的でした。しかし、経済の成熟や地球環境保護の観点から、建物を長期間にわたって使用する「ストック」という考え方が広まりつつあります。これについては、気候変動の影響が世界的に大きくなる中で、これまでの大量生産・大量消費・大量廃棄というサイクルから脱し、自然環境に対する負荷を軽減しようという動きが関係しています。
建物の長寿命化実現のために、重要になるのが維持管理という観点です。適切な運用や手入れ、こまめな点検や修繕といった維持管理業務がなければ、建物は急速に老朽化し、建物の所有者や利用者にさまざまなリスクをもたらす恐れがあります。
建物や設備の経年劣化が進み、エレベータやエスカレータの故障、水漏れなどが発生すると、テナントや居住者に強いストレスを与えます。それが退去や賃貸料の値下げなどにつながり、収益を悪化させることも考えられるでしょう。また、外壁の剥落、看板の落下などによる事故のリスクが高まる可能性もあります。このように、維持管理を怠ると、建物の資産価値を損なう危険があるのです。
一方で、適切な維持管理を継続することは、テナントや居住者に安心感をアピールできます。ザイマックス総研がオフィスビルに入居中のオフィステナント企業を対象に実施した調査によると、ビルを選択する際に重視する項目として、「清掃衛生・維持管理状態」を41%の企業が「大変重視する」、54%が「ある程度重視する」と回答しています。
適切な維持管理は、他の建物と差別化を図るファクターとなり、建物の資産価値向上を可能にする重要な要素です。維持管理に取り組まないことはリスクであり、逆に取り組めばチャンスになるといえます。では、どのように取り組めばいいのでしょうか。まず、建物維持管理にはどのような業務が含まれるのかについて解説します。
建物維持管理業務に含まれる5つの業務
維持管理の業務は、(1)日常管理業務、(2)建物・設備管理業務、(3)環境衛生管理業務、(4)保安警備・清掃管理業務他、(5)統括ビルマネジメント業務、という5つに分類することができます。それぞれの詳細について見ていきましょう。
(1)日常管理業務
設備機器などを運転、監視、コントロールし、建物の快適性を確保します。また、設備機器の運用を効率化し、費用の適正化を図る目的もあります。
<主な業務>
運転・監視業務、日常巡視点検業、オーナー補助業務、トラブル対応業務
(2)建物・設備管理業務
建物の中にあるさまざまな設備機器の点検を実施し、故障・不具合の前兆を発見します。また、設備機器の故障・不具合が発生しないよう、定期的に手入れや修繕を行います。
<主な業務>
建物本体、電気設備、衛生設備、空調設備、機械設備、監視制御設備、防災設備、塵芥処理設備、中水処理設備、特殊建築物、その他設備
(3)環境衛生管理業務
建物内の空間を衛生的に保つため、空気中にCO2やチリなどがどれだけ含まれているのかを測定したり、飲料水の品質を維持するために水質の測定などを行います。そのほかに、貯水槽や排水槽の清掃、害虫駆除といった業務も含まれます。
<主な業務>
衛生管理業務、害虫・小動物防除業務
(4)保安警備・清掃管理業務他
保安警備は、警備によって不審者の侵入を防ぎ、建物の利用者の安全を確保します。清掃管理業務は、日常的な清掃を通して建物内外の清潔性と美観を保ちます。
<主な業務>
建物清掃管理業務、保安警備業務、管理サービス業務
(5)統括ビルマネジメント業務
維持管理を統括する業務で、具体的には、法令チェックや維持管理費の適正化・節減(省エネルギー)提案、図面管理、劣化診断、中長期計画作成支援などを行います。
建物の品質を考慮したパートナー選びのポイント
建物の維持管理業務は、5つの分野にまたがって多種多様な設備機器を扱い、業務も多岐にわたります。そのため、取り組むためには広範な領域における専門的な知識や技術が欠かせません。
業務によっては、資格が必要になる場合もあります。例えば、建築基準法や電気事業法、水道法、労働安全衛生法、消防法、浄化槽法などといった法的制約がある場合は、有資格者や事業所登録でなければ業務を行うことができません。つまり、高品質な建物維持管理を行って資産価値向上を図るなら、プロフェッショナルな会社と協力し、取り組むことが不可欠といえます。そこで重要なのは、パートナーとなる会社を安価という理由だけで選定しないことです。選定する際には、各業務の専門性とともに、ITへの対応、環境への対応といった面も考慮することで、業務の効率化や建物の価値向上へとつなげられます。
5つの分野のうち、建物の資産価値向上という点からすると、とくに重要視したいのが(5)統括ビルマネジメントです。建物の維持管理にはさまざまな要素が組み合わさっていて、それぞれに高度な専門性が要求されるからこそ、それらを統括する業務が大切なのです。建物の維持管理全体を担うので、省エネルギー対応や中長期の支援といった業務も可能になります。
また、近年の維持管理業務においては、「エコチューニング」というキーワードが注目されています。これは、建築物の快適性や生産性を確保しながら、設備機器・システムのエネルギーの使用に関するデータを収集・分析して運用改善につなげるというものです。温室効果ガスだけでなく、光熱水費の削減にもつながります。「環境省が設けている『エコチューニング認定制度』の事業者認定を取得しているかどうか」もパートナー選びの条件に加えてみてください。
建物の維持管理にかかる費用は、「現状を維持するために必要なコスト」であると同時に「建物の資産価値を向上するための、未来への投資」でもあります。維持管理業務のパートナーを選ぶ際には、維持管理に関わる広範な知識と専門性、さらにそれをとりまとめて計画・提案・支援を行うマネジメント力が重要になります。将来性を考慮してIT対応や環境対応といった要素も加味しながら、建物の維持管理について検討してみてはいかがでしょうか。